ここ数年間,青色発光ダイオード特許訴訟が特許関係者の間で話題になった. パイオニア特許を数多く所有する日亜化学工業が,豊田合成,住友商事(クリー /米CREE, Inc.),ローム等との間で訴訟合戦を行ったからである.日亜化学工 業は,クロスライセンスはしないが,LED(Light Emitting Diode/発光ダイオード) は売るというスタンスで,市場の独占を明確に狙った.しかしながら,その後,訴 訟が多岐に及んだことに加え,台湾等で模造品が台頭していることなどに鑑み, 訴訟はすべて和解で終わった.その結果,互いの技術交流によりLEDの市場が 拡大されたとともに,各社とも特許を前面に押し出して単に争うのではなく,特許 を尊重しアライアンスを組む方向に変わってきている. 自己の技術的優位を守るべく特許を活用し,特許侵害訴訟を提起した例もあっ た.2000年(平成12年)に,キヤノンが東洋インキ製造を相手に複写機用トナー カートリッジ特許の侵害を訴えた件である.トナーカートリッジやインクカートリッジ ,インクのリフィル,使い捨てカメラのフィルム詰め替え等,消耗品を取り扱う機器 にあっては,消耗品がビジネスの核となる.ちょうど,携帯電話において,本体は 安売りしても使用度数が多ければ良しとしていたのと同じ論理である.このような 利益源を死守するため,この訴訟では,トナーそのものだけでなく,トナーを用い た現像方法やトナーの補充容器の特許をも用いて侵害に対する特許包囲網を敷 いた. 電機業界は伝統的に特許を重視しており,また,製薬業界では,1つの製品に関 わる技術要素が他業界に比して少ないため,基本特許のもと,その特許期間中に 市場の独占を享受できた.パチンコ,ゲーム業界においては,特許に関心を持って いても積極的に権利行使をしない馴れ合いの状態が続いていたが,今は違う.強 い自己主張で権利の尊重を図っている.2002年(平成14年)のアルゼ対サミーの訴 訟判決では,74億円にものぼる損害賠償額が示され,プロパテント時代を身近に 感じたものであった. ひと頃,メーカーの間で問題となったのが,米国の発明家レメルソン(Lemelson) が取得したバーコード特許,つまりバーコードで生産管理する類の特許である.米国 では特許制度を悪用したサブマリン特許としても有名である.なお,サブマリン特許 とは,対象となる技術が,出願後の長期にわたる審査の間その存在を明かされな いまま突如として成立する特許であり,その様が潜水艦に似ているために名づけら れた.当該特許については,日米両国のメーカーから強烈なリアクションがみられた .レメルソン氏は,自分は現代のエジソンであると称し,日本企業から数百億円以 上のロイヤルティ収入を稼いだとの噂である.こうした個人発明家は米国に多数存 在する.米国は建国以来,憲法で発明者の保護を謳う唯一の国であり,それゆえ 個人も含め発明者を大事にするのは理解できる.しかしながら個人的な見解では, モノ作りをせずにロイヤルティ収入のみを狙うのは特許制度上,不健全に思えてな らない. 最近ではメーカーも,特許で稼ごう,プロフィットセンター化しようという意見が多く 出てきている.特許制度本来の趣旨かどうかの議論もあるが,本質的に特許制度 は,有体物のみならず知識や情報も含めてのモノ作り産業に,ビジネス本来の自 由度を与え,健全な独占状態をエンジョイさせるのが筋でなかろうか.2000年(平成 12年)に米国企業ランバス(Rambus, Inc.)がランバス仕様DRAMに関する特許で,自 国にて日立製作所を訴えたときにもこの議論が出てきたが,仕様や技術標準につい ても特許と密接にかかわりあっている.特に,コンピュータやプリンタ等の種々の機 器が,スタンドアローンではなくインターネット等のネットワークを介して運用される今 日,機器の仕様,たとえば通信プロトコル,画像処理の圧縮技術や誤り訂正技術, あるいはDVD,MPEG,フラッシュメモリカード,ICカードなどについては,情報交換す る際の共通言語たる技術標準が重要視されてきている.標準制定のためのコンソ ーシアムが多数組まれているが,他のメンバーが受け入れ可能な汎用性の高い特 許を提案できるか否かが,ビジネス上のポジションを致命的にする. このような技術標準はボーダレスでありモノに国境はないのだが,特許制度は原 則として各国ごとに制定されており,特許権も各国ごとにしか行使できない.このよう に技術と法律との間にはギャップがある現実を受け止めねばならない.ビジネスの 必要性からは,輸出指向の国,製造拠点となる国などにおいて特許を取得するのが 一般的である.国際特許出願制度も利用率が高まってきている.欧米の企業では, 自国で特許を取得するのに比べ,外国で特許を取得する割合が高く,日本企業もこ れまでの国内特許重視から外国特許取得に比重を移しつつある. |