谷・阿部特許事務所


企業の知的財産部からの関心を集めていた東京高裁での控訴審判決
平成11年(ネ)第3208号 補償金請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成7年(ワ)第3841号)
(平成13年5月22日判決言渡)
本件は、一審被告の従業員であった一審原告が、在職中にした職務発明につい て、一審被告に対し特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を請求し、これ につき原判決が一審原告の請求を一部認容したところ、当事者双方が、これを不 服として控訴を提起した事案です。以下に裁判所の判断の概要をまとめます。
裁判所の判断
1.被告規定の性質について 使用者等が、一方的に、特許権等譲渡の対価を定めることができ、従業者等が その定めに拘束されるとしたのでは、使用者等の利益に偏し、上記立法趣旨に反 する。したがって、上記定めにより算出された対価の額が、特許法35条3項、 4項にいう相当の対価に足りないと認められる場合には、従業者等が対価請求権 を有効に放棄するなど、特段の事情のない限り、従業者等は、上記定めに基づき 使用者等の算出した額に拘束されることなく、同項による「相当な対価」を使用 者等に請求することができるものと解すべきである。
2.本件における「相当な対価」について
    1. 本件発明が諸隈発明の利用発明であること、各社との交渉では諸隈特許 が中心的な交渉の対象となり、本件特許及び前記分割特許には重きが置かれてい なかったこと等の諸点を総合すると、本件発明により一審被告が受けるべき利益 額を5000万円とした原審の認定には合理性があるというべきである(民事訴 訟法248条、特許法105条の3参照)。

    2. 一審原告の提案内容が、一審被告の特許担当者を中心とした提案で大幅に変更されたものであること、当初出願の内容では、各社のピックアップ装置が これを実施しているとはいえず、上記変更の結果各社のピックアップ装置の一部 がこれを実施していると評価できる内容になったこと、本件発明が一審原告の担 当分野と密接な関係を有するものであること等の事情を考慮すると、本件発明が なされるについて一審被告が使用者として貢献した程度は95パーセントである とした原判決の評価には合理性があるというべきである(民事訴訟法248条、 特許法105条の3参照)。

3.消滅時効の成否について
一審原告に対し工業所有権収入取得時報償が支払われた日までは、算定の基礎 となる工業所有権収入は必ずしも明らかでなく、一審原告が一審被告からいくら の報償額が受け取れるかが不確定であったということができるから、同日までは、 一審原告が相当の対価の請求権を行使することは期待し得ない状況であったとい うべきであり、同日までは消滅時効は進行しないと解するのが相当である。
まず、勤務規則その他の定めにより規定された対価の額が特許法35条3項、 4項にいう相当の対価に足りない場合、従業者等は使用者等に相当な対価を請求 することができるとした点については、従業者等の保護を図るという特許法35 条の趣旨からみれば妥当な判断と考えられます。本件で支払われた対価は特許を 受ける権利の譲渡に関するものですが、譲渡の時点で各発明の特許後の価値は予 測不可能といえますから、その後の特許発明の実績に鑑みて承継時の対価が「相 当な」ものでなかった場合に従業者等に追加の支払の請求を認めることは当然と いえるでしょう。
次に、対価を算定する際に評価された使用者等の貢献度に関する部分ですが、 実施契約の対象となる特許権の1つ1つには軽重があるため、複数の特許につい てまとめて実施契約を締結する場合、従業者等の保護という観点から契約内容に 注意を払わなくてはならないということを認識させられました。
最後に、従業者等の対価支払請求権の消滅時効ですが、「相当な対価」が判明し なければ消滅時効が進行しないという判断の流れは合理的で素晴らしいと思います。


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