谷・阿部特許事務所
 知的財産権の最新動向(第1話~第11話までを毎月連載)
 ※ 本論文は、『冷凍』2004年2月号 第79巻 第916号「小特集」に寄稿、著作権は谷義一に帰属。


第7話 特許法で保護される発明

 独創的なアイデア,発明のすべてが特許法の保護対象になるとは限らない.たとえば,新しいビジネスの仕組みや,店舗の商品レイアウトは特許法では保護されない.日本の特許法第2条によれば,特許法で取り扱う発明は,技術的なものでなくてはならず,「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義されている.1999年(平成11年)に喧伝されたビジネス特許に関連して,何が特許法で保護されるのかといった議論が活発であったが,日本では,技術的アイデアでなければ特許法上の発明とは言わない.つまり,特許の対象となりえないのである.この原則は何ら変更されていない.ビジネスの手法がコンピュータを駆使して実現され,しかもインターネット等のネットワークを巧妙に利用しているときは,単なるビジネス手法ではなく特許の対象となりうる.コンピュータソフトウェアについても同様に,特許保護の対象についての議論がなされた.ソフトウェアの骨子たるアルゴリズム自体は特許の対象とはならない.しかし,当該ソフトウェアとコンピュータなどのハードウェアとが協働する形態を具体的手段として表現することで,特許法上の発明と認められるのである.

 発明の技術的な側面について,欧州の判断基準はより厳しい.米国では,特許法の保護対象は技術的なものでなくとも良く,人間の創造物であって,新規かつ有用なものは何でも特許法上の発明と考える.したがって,新規かつ有用なビジネス手法は技術的内容を伴わなくとも特許化される.ピアノの練習方法,ブランコの乗り方などの珍品特許で話題を生むこともあるのが米国である.

 自然法則自体,自然現象自体,抽象的アイデア自体は,日米欧いずれにおいても特許法上の発明となり得ない.自然法則を利用していない,たとえば経済法則や,ゲームのルール,競りのルールといった人為的な取り決め,数学上のアルゴリズム,人間の精神活動にあたるもの,永久機関のように自然法則に反するもの,地球から月へ橋を架ける方法のように実現不可能なものの類は,特許法上の発明とみなされない.

 現行の特許法では,発明を,物の発明,方法の発明,物を生産する方法の発明の3つにカテゴリー分けしているが,ソフトウェアの発明について,いずれのカテゴリーの発明とみるべきか,これまで種々議論されてきた.

 1970年代には,コンピュータの処理工程の点から方法の発明とみなされていた.1980年代に入ると,ワンチップマイコンの影響で,ソフトウェアに組み込んだメモリを搭載した機器(物)の発明が多くみられた.その後のパソコンの発達とともに,ソフトウェアの価値が高まり,ソフトウェアを記録したフロッピーディスクやCD-ROMのような媒体が特許法上の発明として成立するかについて長期にわたり議論された.その結論として,1996年(平成8年)にはこうした記録媒体を物の発明とみなすことになったが,さらにインターネットの興隆により,特許法の保護対象たる発明を技術の発展と調和させる必要性が生じてきた.媒体を保護したとしても,インターネットを介して流通するソフトウェアをどのように保護すべきか―2000年(平成12年)改訂の特許審査基準では,ソフトウェア関連発明をプログラムと表現することを認め,それを追認する形で,2003年(平成15年)4月施行の現行特許法では,プログラムの発明を物の発明と定めた.このように,コンピュータプログラムを物の発明として認知したのは日本が世界初であり,画期的なことであった.特許法の保護対象は,ベネチア共和国に端を発する特許法の時代の「物」を対象とした保護にはじまり,19世紀から20世紀にかけての化学工業の発展による製造方法といった「方法」の保護を経て,現在は,技術的側面をもつ情報自体の保護を指向している.


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