インターネットを用いた発明,例えば米国企業アマゾン(Amazon.com, Inc.)のワンクリック特許で考えてみよう.ウェブサイトを運用するサーバにアクセスして本などを購入する分散処理形態の発明のシステムクレームとして,ユーザ端末(クライアント)と,サーバと,それらを結合するネットワークとを構成要件として特許を取得したとする.このシステムが,日本国内のみで設置されている場合を考えてみれば,ユーザ端末と,サーバとネットワークの所有者および運営者は異なっているのが通常であろう.ところが,特許権侵害の判断は,すべての構成要件を一つの当事者が実施しているか否かに因る.つまり,サーバを所有するのがA社で,ネットワークはB社の所有であれば,両社が共同不法行為(民法第719条)に該当しない限り,A,B社を共同して訴えることができず,今までにそのような形で特許権侵害訴訟が行われたこともない.未踏の分野である.特許法第101条の間接侵害の規定を適用することも考えられるが,そのための立証も容易ではなく,この適用もこれまでに例がない.つまり,このような分散処理のシステム全体について,特許は取れても,いざその特許を行使しようとすると行使がしにくい,あるいは,ほぼ不可能という結果に陥る. それでは,サーバが米国にあり,ユーザ端末は日本にあり,ネットワークが両国にまたがって存在している場合はどうか.特許権は一国においてのみ有効な権利であるため,日本の特許を米国にあるサーバの所有者に対して適用し,訴えを起こすことはできない.日本のユーザ端末を訴えようとしても,ユーザ端末は全システムの一部分でしかなく,いわゆる部分侵害にしか寄与していない.よって部分侵害は侵害ではないという原則から,ユーザに対してのみ提訴することもできない.加えて,日本では,ユーザが「業として」発明を実施していないのであれば権利侵害にならないのである(米国では個人の私的実施でも権利侵害となる). 費用をかけてようやく取得したところで,そのシステム特許は,侵害の対象物が日本国内のみにあろうが,国境をまたいで二か国または多数国に及んでいようが,権利行使できずクズ同然である.これに対する解決策はあるのだろうか? 基本的には,国際条約を締結し,国境を越えての特許発明の実施について一般的なルールを作るべきなのだろうが,これまでのところ各国の思惑もあり,国際的取り決めの見通しは立っていない.次善の策としては,一国内の一当事者のみに的を絞って,サーバのみのクレームやユーザ端末のみのクレームというようにクレームを練り上げることをすすめる. |