自己のひらめき,着想を大事にしたい.そのためには,日頃の業務においてひと呼吸おき,「これは特許にならないだろうか?」と自問自答することである.他人が気づかなくとも,自分が特許価値に気づき,いち早く特許化したとき,他人はその特許を無効とする策を練る必要に迫られる.特許明細書を仔細に検討し,先行技術を調べたりというように,本来業務とは全く異なる後向きな業務を行う羽目になる.なお,2004年(平成16年)より,異議申立制度はなくなり無効審判制度に吸収一本化される. 「こんなものでも特許になるとは・・・」とは,敗者の弁であろう.技術的には大して高度でなくとも,誰もが実施可能な技術に特許価値を認識し,目ざとく特許化を図った者こそ勝者となりうる.逆に,非常に高度で難しい発明は,権利内容の善し悪しを別とすれば,我々のような専門家に依頼せずとも特許を取得できるものの,模倣者もいないことが多く,さほど有効な特許とはならないであろう. 発明として把握できる技術的アイデアが固まったならば,先の「5.特許戦略」の章で述べたように,井の中の蛙とならないよう入念に先行技術を調査することが大切である.それにより自己の発明を自己採点し,従来技術に対して十分に進歩性をもつか否かを判断してみる.独創的な優れた発明であれば,自信をもって明細書作成の準備に取り掛かる.もし自己の発明と類似の先行技術を発見したときには,出願を断念するか,その先行技術に対し差別化できるように自己の発明のチューンアップを図ることが必要である.あるいは,その先行技術を逆手にとって,それとは全く違った発想でパイオニア発明を目指すといったオプションもある. 特許明細書の作成にあたっては,自己の発明との関連で先行技術を解説し,その問題点を示した上で当該発明の説明に入る.そして,自己の発明が先行技術の問題点を解決し,結果として,効果を発揮することもできるということを具体的に記載する.社内でのみ通用する用語や最新の技術用語,また,審査官が理解しにくそうな技術内容,略語,シンボル等は十分にわかり易く説明するのが好ましい.読む者,つまり審査官を念頭において,わかり易くかつ簡潔な表現の明細書を作成することが求められる. クレーム(特許請求の範囲)は,権利書として重要な部分である.表現が曖昧だったり,不必要な内容が盛り込まれているばかりに,権利範囲が狭くなってしまったという事態が起こらぬよう細心の注意を払って作成する.クレームの内容が明細書の発明の開示(詳細な説明)によって十分にサポートされているかの吟味も重要なチェックポイントである. クレームの作成にあたっては,多段階,多面的クレームが良いと言われている.多段階クレームとは,特許を取得したいと考える最も広い上位概念で発明を定義したクレームから,そのクレームに限定的縮減の要件を加えた中位概念のクレーム,さらに実施例をスケッチした形態の下位概念のクレームまでを考えることをいう.一方,多面的クレームとは,ある発明について,別の応用分野はないか,何に利用でき,そのメリットは何かなどを考え,種々の応用分野での適応形態を表現することである.先の「9.特許権と国境」の章で説明した分散処理形態の場合も含めて,全体と部分(システムと,サブシステムまたはパーツ)の両クレームを考える.パーツのクレームは権利範囲が広いので,権利行使できる範囲は広いが,その一方で損害賠償額は小さくなる.特許権侵害については,侵害品がクレームのすべての構成要件を充足することが必要とされる.そのためシステムクレームでは,その充足性判断の要素が多いことにより,侵害性の主張がしにくく,適用範囲も狭いが,いったん侵害が認定されると,損害賠償額はパーツに比して大きい.仮処分や差止請求訴訟では,パーツのクレームが使いやすい. 特許明細書の内容,すなわち発明の開示を充実させるためには,わかり易い表現で多段階,多面的クレームを構成し,審査官がより理解しやすい形で発明の内容を提示することが求められる.そうすることで,より早期の特許権付与が期待できる. |