谷・阿部特許事務所
 
分割出願の利用形態について

 平成17年12月に特許庁ホームページで公表された産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会報告書「特許制度の在り方について」(案)によると、現在、特許査定後・拒絶査定後の分割可能化等を含む分割出願制度(特44条)の見直し案が審議されている。

 そこで、今回は、現状の分割出願制度の下、どのようなケースで分割出願制度が活用されているかを整理してみた。

1.単一性違反の拒絶理由を解消することを目的とした分割出願

 複数の請求項を含む特許出願が単一性の要件(特37条)を満たしていないことを理由に拒絶理由通知又は拒絶査定を受けた場合の対応策である。具体的には、単一性違反の拒絶理由を解消するために、特許出願(「親出願」ともいう。)の一部の請求項を削除する補正を行う。それと共にその一部の請求項を分割出願(「子出願」ともいう。)し、別途、審査を受ける。本来的には複数の特許出願に分けて出願すべき複数の発明群が一つの特許出願書類で出願されたという形式上の瑕疵を救済するための手段として利用されている。

 尚、後日、分割出願が単一性の要件を満たしていないという拒絶理由通知等を受けた場合には、その分割出願を更に分割出願(「孫出願」ともいう。)こともできる。

2.最後の拒絶理由通知等を受けた場合の対応策としての分割出願

 最後の拒絶理由通知に対する補正及び審判請求の日から30日以内に行う補正に関しては、最初の拒絶理由通知に対する補正よりも厳しい内容的制限が課されている。すなわち、最初の拒絶理由通知に対する補正に対しては新規事項追加禁止(特17条の2第3項)の要件が課されているが、最後の拒絶理由通知等に対しては、新規事項追加禁止の要件に加えて、補正可能な範囲としてさらに以下の要件が加重されている。

 ―特許法第17条の第4項―

 特許請求の範囲の補正は、次の何れかを目的とするものに限られる。

 ・請求項の削除
 ・特許請求の範囲の限定的な減縮
 ・誤記の訂正
 ・明りょうでない記載の釈明

 上記の補正可能な範囲は、審査対象である請求項に係る発明の補正に対して一定の縛りをかけることによって審査のやり直し(再サーチ等)を防止し、ひいては審査の迅速化を図るために規定されたものである。そして、この補正可能な範囲を満たしていない補正がなされた場合には、その補正は却下される。

 したがって、最後の拒絶理由通知等が通知された場合に補正可能な範囲を超えて発明を変更したい場合、特に、最後の拒絶理由通知等で引用された先行例との差別化を図るためには「特許請求の範囲の限定的減縮」以外の方法で特許請求の範囲を減縮(「外的付加」ともいう。)しなければならない場合に分割出願を行う。この分割出願を通じて特許法第17条の第4項に規定された補正可能な範囲を超えた発明の権利化を目指すことができる。ただし、親出願に開示されていない事項(新規事項)を追加した内容の分割出願に対しては、分割の要件を満たしていないという理由で、分割出願の効果(出願日の遡及効)は認められない。したがって、その場合には分割出願の日を基準にして新規性、進歩性等の特許性の判断がなされる。

3.一部の請求項に係る発明の権利化を早期に進めることを目的とした分割出願

 拒絶理由通知又は拒絶査定において、一部の請求項にのみ拒絶理由が存在しているとの指摘を受ける場合がある。例えば、請求項が1~10ある場合に、その内の請求項5~10に拒絶理由が存在するとの指摘を受ける等である。審査官は各請求項に対して拒絶理由の有無を指摘する必要があるため(審査基準)、拒絶理由通知等を見れば、拒絶理由が有る請求項とそうでない請求項との切り分けができる。この拒絶理由通知等を受けた場合、拒絶理由があるとの指摘を受けた請求項に関する意見書・補正書を提出して審査官に反論することは可能である。しかし、その反論がなかなか採用されず、その後の審査(審判)が長期化する場合がある。拒絶理由通知及び拒絶査定は出願を単位として受けるため、拒絶理由が有る請求項の審査に引きずられる形で拒絶理由が無い請求項の権利化が遅れる事態が生ずる。このような場合、拒絶理由が無い請求項だけでも早期に権利化するための方策として分割出願が考えられる。具体的には、拒絶理由が有る請求項(上述の請求項5~10)を抜き出して分割出願する。すなわち、現時点で拒絶理由通知等を受けている特許出願から拒絶理由が有る請求項(上述の請求項5~10)を削除し、それを分割出願する。これにより、審査されている特許出願の特許請求の範囲は請求項1~4だけとなるため拒絶理由は解消され、それについては、速やかに特許査定を受けることができる。分割出願については、別途、同じ拒絶理由通知を受けるため、その通知を受けた際に、再度、応答策を検討すればよい。

4.権利行使を目的とした分割出願

 上記2で説明したように、審査がかなり進んだ後、例えば、最後の拒絶理由通知等を受けた後は、特許請求の範囲を縮める方向でしか補正することができない。しかし、審査がかなり進んだ後に出願発明と技術的に抵触しそうな製品等を発見した場合、当該製品をカバーするように特許請求の範囲を補正できればよいが、特許法第17条の2第4項の規定によって、その補正ができないことがある。このような場合、分割出願を活用することが考えられる。つまり、拒絶理由通知等で引用された先行例を回避しつつその製品等をカバーする特許請求の範囲を新規に作成して分割出願するのである。

5.標準化技術に関連する発明の分割出願

 標準化技術に関連する発明の権利化作業は、その標準化作業の進行に合わせたペースで行われることが戦略的に望ましい。すなわち、その技術において標準化される可能性が高い技術事項(必須特許となる可能性が高いもの)が何であるかを予測し、係属中の特許出願の特許請求の範囲にその技術的事項を反映させることが望ましい。そのためには、早期に特許査定がされ権利範囲が確定してしまうことを避ける必要がある。特に、補正の機会が与えられないまま一発登録されることは避けたい。そこで、出願係属期間を延ばす手段として分割出願の活用が考えられる。すなわち、審査請求後に、分割出願を一回又は複数回行うことによって分割出願を特許庁に係属させておき、標準化の動向に沿って随時、必要な補正を行える状態にしておく。

6.念のために行う分割出願

 拒絶査定を受けた場合に、再度の審査を求めるための審判請求を行うことができる。審判請求をすると、審査官が下した拒絶査定の当否を審判官合議体が審理する。審理した結果、拒絶査定の根拠となった理由は解消されているが別の拒絶理由が有ると判断されれば拒絶理由通知が発せられ、補正の機会が与えられる。しかし、そうでない場合には、補正の機会が与えられないまま拒絶審決に至ってしまう。したがって、審判請求に係る出願が拒絶審決された場合の事前の策として、念のため、審判請求の日から30日以内(補正のできる期間)に分割出願を行うことによって、分割出願の権利化の途を残しておく。

2006年1月18日

 


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