谷・阿部特許事務所
 
数値限定に関する均等論を検討した最近の判決

1.数値限定発明に関するクレームの技術的範囲につき、クレームの数値限定範囲からはずれても、均等の範囲内かどうかということが問題となりうる。数値範囲の均等については、数値それ自体は明確とも思われ、通常のクレームと区別した特別なルールを適用すべきとの考え方もあるようなので、確認の意味で最近2年間、かかる数値限定発明について均等論が扱われた判決を調べてみた。以下の5件の判決をピックアップすることができたので、これらにつき簡単に紹介する。

   (a)平成17年 7月12日 知財高裁判決

   (b)平成17年 5月30日 東京地裁判決

   (c)平成16年10月27日 東京高裁判決(控訴審)

      平成16年 5月28日 東京地裁判決(原審)

   (d)平成16年10月21日 大阪地裁判決

2.以下に上記事件についての数値限定に関する均等論の判断の結果を示す。

判決 数値限定 被告数値 均等 理由
(a) 硫酸カルシウム1~20重量% 23.8重量% 否定 本質的部分(第一要件)
(b) 架橋剤0.1~1重量% 閲覧制限あり 否定 本質的部分(第一要件)
(c) 粒径0.1~5.0mmの酸化鉄系鉄鉱石 0~8.0mm 否定 本質的部分(第一要件)
意識的除外(第五要件)
(d) 厚さ1~3μmの薄膜中間層 3μm超 否定 本質的部分(第一要件)
置換可能性(第二要件)
意識的除外(第五要件)

 これらの判決では、いずれも[判決(c)では原審及び控訴審]平成10年最高裁判決による均等の五要件を引用し、対象となった数値限定が少なくとも本質的部分にあたるとして均等を否定している。たとえば、判決(a)では、土壌安定化方法に関する控訴人(原審原告)特許権につき、その詳細な説明を参酌して、必須の添加剤である硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、シリカ粉末、セメント成分を特定範囲内の混合割合で用いることで、セメントの硬化速度を速め、保水性・通気性の課題を解決するものであると認定し、かかる混合割合が本件発明の本質的部分であるとした(発明の詳細な説明には各添加物の含有量の臨界的意義についての記載がされている)。判決(d)では、「一般に、特許請求の範囲において、数値をもって技術的範囲を限定し、その数値に設定することに意義がある場合には、その数値の範囲内の技術に限定することで、その発明に対して特許が付与されたと考えるべきであるから、特段の事情のない限り、その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分に当たると解すべきである」と述べている。

 なお、「本質的部分」の意義については、たとえば判決(c)控訴審がいうように、「特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける技術的思想の中核を成す特徴的部分、言い換えれば、当該部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される」としている点が参考になる。

 該当数値範囲につき、特許出願手続中に限定補正している案件についての判決(c)や(d)では意識的除外も理由に挙げている。たとえば、判決(c)の控訴審判決では、防波堤用異形コンクリートブロックの特許権につき、特許出願手続において、その一成分である酸化鉄系鉄鉱石の粒径を「5.0~40mm」から「0.1~5.0mm」に補正しており、この補正を含めた補正後の発明の構成は先行技術にはなんらの記載もないと主張していた点を指摘し、意識的に粒径を限定しそれと相違する部分は意識的に除外されたものというべきと認定された。

 判決(d)では置換可能性の欠如も理由に挙げている。判決(d)では、酸素発生陽極の特許権では結晶性タンタル金属の薄膜中間層の厚みが1~3μmと規定され、上限を3μmとする効果として、結晶性タンタル金属の使用量を抑制して経済性を高める点を認定し、厚みが3μm超の被告製品は、本件特許発明の目的を達成できず、作用効果も同一でないとされた。

3.なお、均等の話からははずれるが、そもそものクレーム中の数値の意義につき、判決(d)では、有効数字や測定誤差との関係についても言及しており参考になる。すなわち、「厚さ1~3μmの薄膜中間層」にいう上限の「3ミクロン」の意義につき、原告は有効数字1桁であるから、「2.5~3.4ミクロン」と読むべきと主張し、被告は厳密に「1~3ミクロン」の範囲内にあることが必要として争った。裁判所は、結論として原告の主張を採用しなかった。すなわち、「3ミクロン」の数値は特許出願手続中に実施例1の「タンタルとして40g/m2、厚さ3ミクロンのα型結晶構造を持つ金属タンタルを主成分とする中間層」の記載を唯一の根拠として補正で追加されたものであると認定し、「3ミクロン」とは、実施例1における40g/m2のタンタルを用いてスパッタリングしたものであると解した。そして、実施例1においては、大きさ30mm×10mmの金属基体が用いられ、これは300mm2の表面積であるところ、上記「40g/m2」は、計算上、300mm2当たり0.012gに相当し、これを有効数字1桁、すなわち300mm2当たり0.01g単位でしか測定できないと仮定すると、300mm2当たり0.01gは「33g/m2」、300mm2当たり0.02gでは「67g/m2」となり、「40g/m2」の数値は現れないから、有効数字は少なくとも2桁以上あるとし、上限である「40g/m2」とは多くとも40.5g/m2に至るものではないものとした。また、有効数字とは別に、実施例における誤差の最大の範囲が権利範囲に含まれるか否かについても触れ、たとえば、実施例において0.5ミクロンの誤差があるのであれば、その誤差の範囲まで、すなわち、「3.5ミクロン未満」を上限としてクレームに記載すればよいのであり、これをせずに、クレームに上限を「3ミクロン」と記載しておきながら、「3.5ミクロン未満」が技術的範囲であるとすることは、クレームの記載の明確性を損なうものとしている。

4.以上まとめると、数値限定発明の均等についても平成10年最高裁判決による均等の五要件を用いて判断されており、特に本質的要件(第一要件)あるいは特許出願手続経過中の補正に係る数値限定に関しては意識的除外(第五要件)の要件が問題にされている。また、均等の問題以外にも、そもそものクレームの文言解釈の問題として、数値の有効数字が問題とされることがあり、また測定誤差については予め数値範囲に取り込んでおくべきことが挙げられる。

以上  

田村 正

2006年1月30日


閉じる


copy