谷・阿部特許事務所
 
判決紹介


                  (2009年4月14日)
 

 最近の判決の中には、進歩性の判断に関して、これまでの特許庁の審査基準に少なからず影響を与える可能性があると思われるものが多く見られるようになってきた。裁判所は、これまで以上に、容易想到とするための動機付けを重視し、後知恵を排除する必要性を求めているものと解される。
 以下の判決は、進歩性を否定した特許庁の審決が取り消されたものであるが、裁判所における最近の進歩性の判断基準を示す一般的な説示が含まれており、実務に参考となると考えられるのでその内容を簡単に紹介する。

○平成20年(行ケ)第10261号(平成21年3月25日判決、知財高裁3部)(審決取消)

<事案の概要>
・特願2000-537427号(発明の名称「上気道状態を治療するためのキシリトール調合物」)
・不服2004-9407号(審決の結論「本件審判の請求は,成り立たない。」)
国際公開第98/03165号パンフレット(引用例1)及び特表平6-50
7404号公報(引用例2)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
・特許請求の範囲
「【請求項1】鼻の鬱血,再発性副鼻洞感染,又はバクテリアに伴う鼻の感染又は炎症を治療又は防止するために,それを必要としている人に対して鼻内へ投与するための鼻洗浄調合物であって,キシリトールを水溶液の状態で含有しており,キシリトールが水溶液100cc当たり1から20グラムの割合で含有されている調合物。」

<判示内容>
 判決は、以下のとおり判示して、審決を取り消した。
「引用例1のキシリトールの投与により上気道感染を処置する際に,経口投与に代えて,鼻への投与を採用し,鼻内へ投与するための鼻洗浄調合物とすることは,当業者が引用発明及び引用発明2に基づいて容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである。」
また、判決は、進歩性の判断基準について、以下のとおり説示している。
 「特許法29条2項が定める要件は,特許を受けることができないと判断する側(特許出願を拒絶する場合,又は拒絶を維持する場合においては特許庁側)が,その要件を充足することについての判断過程について論証することを要する。同項の要件である,当業者が先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたとの点は,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断されるべきものであるから,先行技術の内容を的確に認定することが必要であることはいうまでもない。また,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであることが通常であるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の有無の判断においては,事後分析的な判断,論理に基づかない判断及び主観的な判断を極力排除するために,当該発明が目的とする「課題」の把握又は先行技術の内容の把握に当たって,その中に無意識的に当該発明の「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことのないように留意することが必要となる。さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等の存在することが必要であるというべきである(知財高等裁判所平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件・平成21年1月28日判決参照)。
 さらに、判決は、審決書の書き方についても、以下のとおりに言及している。
「けだし,審決書の理由に,当該発明の構成に至ることが容易に想到し得たとの論理を記載しなければならない趣旨は,事後分析的な判断,論理に基づかない判断など,およそ主観的な判断を極力排除し,また,当該発明が目的とする「課題」等把握に当たって,その中に当該発明が採用した「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことを回避するためであって,審判体は,本願発明の構成に到達することが容易であるとの理解を裏付けるための過程を客観的,論理的に示すべきだからである。」

<筆者所感>
本判決において、「該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等の存在することが必要である」との判示がなされているが、この判示によれば、「技術分野の関連性」が存在するからといって、直ちに、引用例の組合せが容易想到とはいえないはずであり、また、周知技術であるからといって直ちに組合せが容易想到ということにもならないはずである(平成20年(行ケ)10305号判決参照)。特許庁における進歩性の判断基準が平成12年の基準改正前に戻るのかどうかは不明であるが、この判決を受けて、拒絶理由、審決の説示が、丁寧かつ論理的になることを期待したい。


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