谷・阿部特許事務所
 
判決紹介

梅田 幸秀
新開 正史
 

中空ゴルフクラブヘッド事件(中間判決)
(平成21年(ネ)第10006号)
平成21年6月29日判決言渡、知的財産高等裁判所第3部

-被告製品と異なる構成部分の本質は、その構成部分自体にあるのではなく、課題の解決原理にあるとして、均等論の適用を認めた事例-

参考;ボールスプライン事件最高裁判決(均等論)抜粋
(平成6(オ)1083号、平成10年02月24日、最高裁判所第三小法廷)
 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、
(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、
同一の作用効果を奏するものであって、
(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を
   有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することが
できたものであり、
(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
   右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。

1.本件特許(特許第3725481号)
【請求項1】
(a)金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって,
(b)前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,
(c)前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,
(d)該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した
(e)ことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。

2.判示内容(中間判決)
(結論)
 被告製品は本件発明の構成要件(d)を文言上充足しないが,本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属する。

(判示)
(ア)構成要件(d)の「縫合材」の意味
・構成要件(d)における「縫合材」は,そもそも,当該用語が,「複数の対象物のすべてを貫き通すこと によって結合させるために用いられる部材」という通常の意味から離れて用いられていることが明らかで あるから,「縫合材」の通常の語義のみに従って,その内容を限定する合理性はないといえる。
・単に「部材」などの語を用いることなく,「縫合材」との語を選択した以上,その内容は,単なる「部材 」とは異なり,何らかの限定をして解釈されるべきところ,その限定の内容を技術的な観点をも含めて解 釈するならば,「縫合材」とは,「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくと も2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」であると解するのが相当である。

(イ)被告製品の構成<d>
「透孔7を介して各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8を前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに一つの貫通穴を通して,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着し,前記FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなる」

(ウ)構成要件(d)における「縫合材」の文言充足性
被告製品の構成<d>における「炭素繊維からなる短小な帯片8」は,構成要件(d)の「縫合材」であることの要件(「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」)を充足しない。したがって,被告製品は,本件発明の構成要件(d)を文言上充足せず,文言侵害は成立しない。

(エ)均等侵害の成否について
ア)置換可能性について
・本件明細書の記載によれば,本件発明の構成要件(d)において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的,作用効果(ないし課題の解決原理)は,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチ ック製の外殻部材との接合強度を高めることにあるものと認められる。
・他方,被告製品では,FRP製下部外殻部材9は,前方フランジ部5aにおいては,帯片8の下縁部の下 面に一体的に接着されており,クラウン部を構成するFRP製上部外殻部材10は前方フランジ部5aに おいては,帯片8の上縁部の上面に一体的に接着されており,金属製外殻部材1の上面フランジ部5を上下から挟むようにFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10が金属製外殻部材1に接着されて いる。
・前方フランジ部5aにおいて,炭素繊維からなる帯片8は,一つの貫通穴に通され,上面側のFRP製上 部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着されることにより,金属製の外殻 部材(金属製外殻部材1)と繊維強化プラスチック製の外殻部材(FRP製上部外殻部材10)との接合 強度を高める効果を奏している。同効果は,本件発明において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的,作用効果と共通するものである。
・すなわち,被告製品では,金属製外殻部材の接着界面のみならず,その反対面側においても,FRP製下部外殻部材9を当てて加熱・加圧する成形がされているため,帯片8は,金属製外殻部材の接着界面の反 対面側においても,繊維強化プラスチック製の外殻部材(FRP製下部外殻部材9)と,一体に接合している(甲11,弁論の全趣旨)。 そのため,帯片8を,金属製外殻部材に設けた貫通穴に複数回通すことによって強度を確保する必要がない。
・以上のとおりであり,本件発明の構成要件(d)における「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」と被告製品の構成〈d〉における「(炭素繊維からなる)短小な帯片8」とは,目的,作用効果(ないし課題解決原理)を共通にするものであるから,置換可能性がある。

イ)置換容易性について
本件発明においても,被告製品においても,金属製外殻部材に設けられた貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことは共通であり,金属製外殻部材の複数の貫通穴に複数回通し,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材を,一つの貫通穴に1回だけ通し,金属製外殻部材の上下において上部繊維強化プラスチック製外殻部材及び下部繊維強化プラスチック製外殻部材と各1か所で接着する部材に置き換えることは,被告製品の製造の時点において,当業者が容易に想到することができたものと認められる。したがって,置換容易性は認められる。

ウ)非本質的な部分か否かについて
・特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと,本件発明は,金属製の外殻部材の 接合部に貫通穴を設け,貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことによって上記目的を達成しよ うとするものであり,本件発明の課題解決のための重要な部分は,「該貫通穴を介して」「前記金属製外 殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成にあると認められる。
・「縫合材」の意味は,技術的な観点を入れると,「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」と解すべきである が,当該要件中の「一つの貫通穴ではなく複数の(二つ以上の)貫通穴に」との要件部分,「少なくとも2 か所で(接合(接着)する)」との要件部分は,本件発明を特徴付けるほどの重要な部分であるとはいえない。
・「縫合材であること」は,本件発明の課題解決のための手段を基礎づける技術的思想の中核的,特徴的な部分であると解することはできない。
・したがって,本件発明において貫通穴に通す部材が縫合材であることは,本件発明の本質的部分であると は認められない。

エ)対象製品の容易推考性について
(略)
オ)意識的除外について
(略)
3.所感
 東京地裁が均等論の適用を認めなかったのに対し、知財高裁は均等論の適用を認めたが、両者で判断が異なったのは、特許発明の本質的部分の解釈に違いがあったからである。
 まず、被告製品と異なる部分である「縫合材」の解釈について、東京地裁と知財高裁とでは相違がみられる。「縫合材」については、両者とも、明細書の発明の詳細な説明を参酌しているのであるが、東京地裁が、「本件発明における「縫合材」は,金属製の外殻部材に設けた複数の貫通穴に,金属製の外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)との間を曲折しながら連続して通した部材」と解釈しているのに対し、知財高裁は、「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」と解釈している。
東京地裁は、特許請求の範囲に「縫合材」と記載されていることから、接合強度を高めるための「縫合」とはどのような態様のものであるのかを検討しているのに対し、知財高裁は、「縫合材」という用語とは離れて、接合強度を高めるという課題を解決するための手段はいかなるものであるかを検討しており、この検討の視点が「縫合材」の解釈の違いをもたらしたといえる。
 発明の本質的部分については、東京地裁が、上記した縫合材についての解釈の下で、「本件発明においては,縫合材により,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを結合したことが課題を解決するための特徴的な構成であって,このような縫合材は,本件発明の本質的部分というべきである。」としているのに対し、知財高裁は、上記解釈において、「一つの貫通穴ではなく複数の(二つ以上の)貫通穴に」との要件部分,「少なくとも2か所で(接合(接着)する)」との要件部分は,本件発明を特徴付けるほどの重要な部分であるとはいえない。」、本件発明の課題解決のための重要な部分は,「該貫通穴を介して」「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成にあるとしている。
東京地裁は、接合強度を高めるという課題を解決するための必須の要件部分(「縫合材」そのもの)を発明の本質的部分と考えているのに対し、知財高裁は、必須の要件部分のうちの重要な部分(「縫合材」の中核をなす要件部分、すなわち、課題の解決原理となる部分)を発明の本質的部分と考えているように思われる。
 本判示は、発明の本質的部分を、特許請求の範囲の記載を超えて、課題の解決原理に求めた点で、均等論適用の理論として特筆すべきものであり、今後、特許発明の技術的範囲の解釈に大きく影響を及ぼすものといえる。


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